良い人間関係を築く言葉・名言

 

身を破るよりも、心を傷しうるは、人を害う事猶甚し

 

吉田兼好『徒然草』

 

【意味】
心を傷つけること。それは体の傷以上に大きく深い痛みをもたらします。また、心の悩みが体に影響を及ぼし、不調や病気を招くこともあるのです。自分に対しても、周りの人に対しても、心を大切に扱うようにしましょう。そうすることで健やかさを保つことができ、人との関係もよりよいものになっていくのです。

いかなるが 苦しきものと問ふならば、人をへだつる心と答へよ

 

良寛(本人の書)

 

人を見下したり、差別する心は、相手だけでなく自分をも苦しめてしまいます。うまくいかないのはこの人のせい、あの人がいなければいいのに……そうした否定的な感情にとらわれると、喜びや幸せがあっても気づくのが難しくなってしまうのです。この世に完璧な人はいません。人や自分の弱さを受け入れ、否定的なこだわりを捨て去れば、心が解放されます。そうすれば、大きく穏やかな心で人とよい関係を築けるようになるでしょう。

やまとうたは、ひとのこゝろをたねとして、よろづのことの葉とぞなれりける

 

紀貫之『古今和歌集』

 

【意味】
人の心を種に、あまたの言葉となって世に生み出されたものが和歌です。私たちも、和歌に限らず、日々たくさんの言葉を伝え合っています。それらは一人ひとりの心の中から生まれたものl.心優しい人からは柔らかな言葉が、強く前向きな人からは凛とした言葉が紡がれます。そうして芽生えた言葉はいつか誰かの心に届き、美しい花を咲かせていくのです。

 

 

 

悲しい時は身一つ

 

松江重頼『毛吹草』

 

【意味】
つらく、苦しい状況に陥ったとき、誰かに支えてもらいたいと思うこともあるでしょう。ですが、どんなに親しい人でも自分の気持ちを完全にわかってもらうことはできないのです。自分の悲しみやつらさを本当に理解できるのは自分だけ。そしてどんな困難に陥っても、それを受け止められるだけの強さも、私たちは持っているのです。一人、その痛みに耐え、受け止めた先には、より成長した自分との出会いが待っています。

 

枕をならべても 只はかりがたきは人の心なり

 

作者不詳『平治物語』

 

【意味】
相手の心を知るのは難しいもの。心は一つにとどまることなく、時や状況とともに変わり続けていくのです。だからこそ、相手のことをわかったつもりにならず、言葉を交わし、思いを分かち合い、お互いのことを知り続けようという努力が必要です。そうした歩み寄りが互いの距離をより近く、より深いものにしてくれるのです。

人を治むるは、よろしく寛なるべし 己を治むるに至っては、厳なるを貴ぶ

 

室鳩巣『奥村伯亮に答ふる書』

 

【意味】
人に対しては温かく寛大に接することが大事ですが、自分に対してはある程度の厳しさも必要です。自分を律する姿勢を忘れてしまうと、怠け心や気持ちの乱れが生じ、目標を達成することや、自分を高めていくことが難しくなってしまうのです。優しさと厳しさの両方を持ち、自分と周りとの良好な関係を築くことが大切です。

他人の悪を能く見る者は、己が悪これを見ず

 

足利尊氏『等持院殿御遺書』

 

【意味】
ほかの人の欠点ばかりを気にしている人は、自分の欠点にはなかなか気づかないもの。他人を正すことばかりに気をとられていると、自分の欠点や未熟さを直視することができず、改める機会を逃してしまうのです。もし今度、他人の欠点に気づいたなら、それを鏡にして、自分に悪いところがないか振り返ってみましょう。それが自分を変え、成長させていくことにつながるのです。

物を贈るには薄くして誠あるを要す

 

上杉鷹山(出典不明)

 

【意味】
贈り物は、贈る側ももらう側も、お互いに嬉しい気持ちになるのが一番です。そのためには、お金をかけるよりも心を込めることが大切です。相手のことを喜ばそうと、相手の暮らし、好み、趣味、幸せを懸命に考えて品物を決めることが誠意であり、思いやりです。そうして決めた贈り物は、たとえお金がかかっていなくても、きっと相手に多くの喜びを与えるでしょう。

人我に負くとも我人に負くことなかれ

 

佐藤一斎『言志後録』

 

【意味】
人に裏切られたり、だまされたりすれば、誰でも深い悲しみや怒りを覚えます。ですが、その痛みにとらわれ、自分も同じようなことをしないよう、自制するのが大切です。裏切りは痛み以外に何も生み出しません。そんな行いに手を染めるより、自分が正しいと思う道をまっすぐ歩いていけばいいのです。

才あるものは徳あらず 徳あるものは才あらず 真材誠に得がたし

 

新井白石『折たく柴の記』

 

【意味】
才能と人格、その両方を兼ね備えた人を見つけるのは難しいもの。才能がある人は、心よりもその才を磨くことに夢中になり、心豊かな人は、その優しさゆえに人と腕を競うのを避けるからかもしれません。だからこそ、その人を見るこちらの目が大切になります。表に出ている相手の才能や人格だけでなく、その裏にあるその人の本質を見極めること。それが素晴らしい人との出会いをもたらしてくれるのです。

山水に得失なし 得失は人心にあり

 

夢窓疎石『夢中問答』

 

【意味】
出来事や仕事、ときには人に対しても、自分にとって徳か損かを考えてしまうことがあります。ですが、そのような感情は人だけが持っているもの。山や川などの自然は、徳もなければ損もなく、ただ静かにその営みを繰り返しています。その悠然とした姿は、利害にとらわれた私たちの心をゆっくりとほぐしてくれるでしょう。

和を以て貴しとなし さからうことなきを宗とせよ

 

聖徳太子『十七条憲法』

 

【意味】
和というと、個人的な主張を抑え、周りとの平穏な関係を大切にしようという姿が浮かぶかもしれません。ですが、和とは一人ひとりの考えや個性を大切にし、それを正直に伝え合い、ときに競争し、ときに話し合いながら、お互いに歩み寄って理解を深めていくこと。それぞれを尊重しながら、高め合い、磨き合うことができる。そんな関係が和なのです。

袖振り合うも他生の縁

 

作者不詳『松ゆずり葉』

 

【意味】
たくさんの人がいるこの世の中で、道ですれ違い、お互いの服の袖が触れ合うだけの出会いであっても、前世からの縁なのかもしれません。ほんの一瞬の出会いであっても、その出会いが起きる確実はどのくらいでそう。どんな些細なものでも、一生の中で出会う人と、まったく出会うこともない人、どちらが多いでしょう。そう考えると小さな小さな出会いも、大切にする気持ちが生まれてきます。そして、その気持があれば、出会いは大きく深く広がっていくのです。

魚は水にあかず 魚にあらざれば、その心を知らず

 

鴨長明『方丈記』

 

【意味】
魚は水に飽きることはありません。そして、その気持は魚になってみないと分からないものです。それは人も同じ。自分とは違う考えや生き方の人がいても、その人にとって正しければそれでいいのです。受け入れて尊重する気持ちが大事です。そうしてお互いの個性や価値観を認め合えば、温かなつながりを持って、生きていくことができるのです。